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■タダでやったら訴えられました「「凍結精子を無断で処分」 会社員夫妻、病院など提訴へ」

 



精子の凍結保存。

治療により生殖機能が失われる可能性がある場合、

精子を液体窒素にて凍結保存します。




通常は半年から1年おきに

継続の契約を行い、

数万円の経費を払います。

設備も液体窒素も

タダではありませんから。






骨髄異形成症候群のことを医療関係者は

MDSと呼びます。

MDS患者さんは残念ながら

大変予後が不良です。

今回、裁判をされる患者さんは

本当にラッキーなうちの一人です。






「凍結精子を無断で処分」 会社員夫妻、病院など提訴へ
朝日新聞デジタル 2016年6月1日(水)19時20分配信
http://www.asahi.com/articles/ASJ507XHFJ50PTIL059.html

 病気治療の前に凍結保存していた精子を無断で処分されたとして、大阪府池田市に住む夫婦が2日、大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)を運営する大阪市民病院機構と当時の担当医を相手取り、計1千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴する。夫婦は「子どもを得られなくなった苦しみを知ってほしい」と訴えている。

 原告は会社員北村哲也さん(31)と妻(29)。訴状などによると、北村さんは血液が正常につくれない骨髄異形成症候群と診断され、2003年11月に大阪市立総合医療センターに入院した。治療で精子細胞が壊れる恐れがあったため、センターは翌月から液体窒素で精子を凍結させ、無償で保存を始めた。

 その後、12年4月に体外受精の担当医が別の病院に異動することなどから、センターは1年後をめどに凍結精子の移管や廃棄を検討。当時、交際中だった夫婦は同年12月、医師に「結婚するまで待ってほしい」と依頼。訴状では「勝手に廃棄することはない」と回答があったとしている。

 ところが、廃棄について北村さんに連絡がないまま、14年9月ごろに液体窒素の補充が打ち切られ、保存中の精子は機能を失った。

 北村さんは結婚3カ月後の15年4月、精子を引き取るためセンターに問い合わせ、凍結保存が継続されていないことを知った。訴状では、管理体制の甘さが担当者間の連絡ミスを生み、「了承を得た」と思い込んだと主張している。

 市民病院機構は取材に対し「現段階でコメントは差し控えたい」としている。(阿部峻介)






精子無断処分「真相を明らかにして」 提訴決めた会社員
朝日新聞デジタル 2016年6月1日(水)21時5分配信
http://www.asahi.com/articles/ASJ507XHGJ50PTIL05B.html

 北村哲也さん(31)は交際中、子を持つことに消極的だった。周囲の勧めで精子を凍結保存したものの、同じ病気になるのではと恐れたからだった。「それでも子どもが欲しい」。妻の強い思いがうれしくて、覚悟を決めた。

 12年12月にセンターの医師とやりとりした夫婦は、「猶予はできた。勝手に廃棄されることはないだろう」と安心し、2人で精子の移管先を探し始めた。

 インターネットや友人からの情報を頼りに、20件超の施設に問い合わせた。ようやく受け入れ可能な大阪市内の診療所を見つけたのは、結婚直後の15年3月末。翌月、弾む思いでセンターに問い合わせた。折り返しの電話で「液体窒素が溶けているようだ」。理解できなかった。隣にいた妻は、声を上げて泣いた







おそらく時系列はこんな感じです。



2003年に精子凍結保存開始

2012年に廃棄検討、患者さん「待ってほしい」

2014年に液体窒素供給停止

2015年に患者さん問い合わせ、凍結保存中止を知る




逆に言うと10年以上、

病院側は

無償で精子保存をしてくれていたわけです。





たぶん、液体窒素が入っていなくて

空になっていて

精子も常温保存になってしまっていたの

ではないでしょうか。




あと、精子保存のお金を取っていないことや

あやふやな感じで保存されていることから

きちんとした契約が成立していなかったのではないでしょうか。



医師の個人的な努力で精子保存などが行われていて、

医師が転勤などにより

そのシステム自体がなくなることが

よくあります。




患者さんは大変困ってしまいますが、

他の医師がフォローできるという

保証は残念ながらありません。





きちんとシステム化していない

医療について

多くの医療関係者は無償の手弁当で行っています。




それに対して

「責任問題だ」

「何てひどい」

「声を上げて泣いた」

という書き方をされると、

医療関係者としては複雑です。



「なにもかも善意で無料でやっていて、

それが当たり前で、

なにかあったら責任問題になる」

という状況では、

なかなか患者さんのためだと

わかっていても二の足を踏んでしまうことが多くなってしまいます。









MDSは大変予後が悪い病気です。

データを見ると(1)、

低リスク群でも50%生存率が5.7年

高リスク群では50%生存率が0.4年しかありません。


言い換えると、

どんなにスコアが良くて状況がいい患者さんでも

MDSと診断されると半数の方は5、6年で亡くなります。

ハイリスク群だと半年で半数の方が亡くなります。



医療が発達してなお、

MDS患者さんには決定的な治療法は

まだありません。





本当に大変な治療を乗り越えて

長期生存を果たした患者さんの

凍結保存した精子が失われていた。




その間の時間経過は10年以上。

維持するのは、医師の善意のみ。

設備もお金も時間も、すべて病院と医師の自腹です。





そして提訴。





たぶん、マスコミも世論も

医療関係者を叩くのでしょう。





感情的にその怒りを

医療関係者に振り下ろされると、

こちらとしては困ってしまうのです。







医師はこう思っているはずです。

無償の善意でやっていたはず。

タダでやったら訴えられました。

最初からやらないほうがいいよね。




それでも、マスコミと患者さんの

怒りの鉄槌は、

きっとどこかに

振り下ろされることでしょう。




振り下ろされる場所に

医療関係者と

その善意が

あるのかもしれません。







(1)
骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 平成 25 年度改訂版 8章 予後 P.21
http://zoketsushogaihan.com/file/guideline_H25/3.pdf



ご参考になりましたら幸いです。

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コメント

No title

私も今朝このニュースを知り、大変興味深く読んだ一人です。もう少し詳しく知りたくて検索してこちらのブログにたどり着きました。

無償というのは研究対象だったからだそうですね。それはともかく・・・
この男性以外にも数十人同様のお立場な人が居たそうですが泣き崩れたり提訴してみたりしたのはこの男性ただ一人なんですね。

研究対象とはいえ、100~200万程の管理費がかかるところタダで保存してくれた医師(研究以外にもおっしゃる通りそこに厚意があったと思います)、病院に対して後ろ足でパッパッ土をひっかけるような事をよくできるなぁ・・・と心が冷える思いがしました。

男性の妻や両親、親族、友人など、だれも「それはオマイが間違ってるぞ」と指摘してあげなかったのも恐ろしいです。

そうそう。世間は医師病院側に同情的に見えますが・・・。

顔出しで批判できるこの男性に少なくとも私は呆れるばかりでした。

Re: No title

コメントありがとうございます!
レスが遅くなってすみません。
すっかり返信投稿していたと思っていました。

一面的な報道スタンスでは、やはり病院を叩く姿勢に見えますが
どうでしょう?
医療機関はいろいろと無償でやってあげているつもりが、
患者にとってはやってもらって当然の権利ととらえている、
ということがあるように思えます。

報道の一面性に引っ張られないようにしたいものです。
今後ともよろしくお願い致します!




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フルコースをこなしたため貧乏から抜け出せず。
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大学から地域(僻地ともいう)の救急医療で疲弊しました。
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田舎で開業、借金は天文学的数字に。


今は田舎で開業して院長になりました。
でも、教授に内緒で開業準備していたころのハンドルネーム”中間管理職”のままでブログを運営してます。

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日本の医療制度(医療崩壊)、僻地医療事情、開業にまつわる愚痴と、かな~り個人的な趣味のトピックスです。

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