2013/08/24
■「切なさの前提条件」 映画「風立ちぬ」 感想
「風立ちぬ」を見に行きました。
前評判以上に良い映画でした。
以下、ネタバレがあると思います。ご了承ください。
私にとっては「切ない映画」でした。
そして、この映画に対して素晴らしいという絶賛の声と
よく分からないという、理解不能にも似た声が混じるのも
十分に分かる感じがしました。
美しいものが失われて行く「切なさ」。
美しい女性、美しい恋、そして美しい飛行機。
時代のために天才が飛行機を
戦闘機として作るしかない「切なさ」。
天才が美しさを求めた先が戦闘機だった「切なさ」。
その全てを傾けて作った戦闘機が誰も戻ってこなかった「切なさ」。
ほとんど誰にも祝福されない結婚の「切なさ」。
病気が進み、菜穂子が二郎のもとを去らなくてはいけない「切なさ」。
そして暗示的に示される菜穂子との死別。
たぶん、菜穂子の死について二郎がなんら関わることが出来なかった「切なさ」
この映画は
そんな「切なさ」に満ちています。
すべての登場人物が主人公の天才を支えます。
そして血と汗の結晶である「ゼロ」を作り上げます。
登場人物の努力が全てが不幸に転換してしまったか、
といえばそうではありません。
みんなが精一杯生きて、
その一瞬のきらめきが
映画を見ている私たちに「切なさ」を
残すのではないでしょうか。
そして、この「切なさ」には
前提条件があります。
映画を見ながら
「今回の作品、海外の人が見たらどうおもうだろう」
と思われた方はいませんか?
この「切なさ」を感じるには
「前提条件」が必要だとは思いませんか?
関東大震災
第一次世界大戦
世界恐慌
ロンドン軍縮会議
第二次世界大戦
などについては全く説明がありません。
こういう歴史が背景にあることが
前提なのです。
結核についても同様です。
まだこちらは映画を見ていると分かりますが、
結核は不治の病で、今でいうガンかそれ以上の悲壮感がありました。
特効薬のストマイ(ストレプトマイシン)の
日本導入は昭和24-25年で、
終戦が昭和20年ですから間に合いません。
まったく有効な治療がない患者さんたちが
きれいな空気で結核を治療しようという
サナトリウムが「魔の山」や小説「風立ちぬ」で
描かれています。
零式艦上戦闘機についての話なのに
映画では「サバの骨」の方が
「ゼロ」より出てきます。
七試艦戦、隼、九試単戦、
十二試作陸上攻撃機(後の一式陸攻。ワンショットライター、フライング・ジッポーというほど燃えやすく、連合艦隊司令長官 山本五十六が撃墜された時の搭乗機だった)
戦艦 長門(曲がりの二本煙突は近代改装前)、
航空母艦 鳳翔(実は世界初の空母で、日本が初めて作っています)。
などなど、
知識があれば
ものすごい楽しい部分も一杯あります。
この「風立ちぬ」については
このような歴史的な部分と
文学的、医学的な部分があって
はじめて「切なさ」を
感じることが出来るのではないでしょうか。
結核を知らない子供たちには
なんだかよく分からないと思います。
多分、歴史を知らない小学生には
きびしいと思います。
文学的な体験の浅い中学、高校生でも
ダメな人は一杯いると思います。
「切なさ」の「前提条件」を
クリアした人がきっと
泣ける映画だと思います。
だから、一度ではなく
「前提条件」を確認するために
何度も見る人が出て来るのではないでしょうか。
ちなみに、
私のとなりの知らない中年女性は、
「申す!」
のシーンで号泣してましたが、
最後に
「結局、二郎はゼロ戦でなくて、ハヤブサ作ってたの?」
と言ってました。
きっと色々な感じ方がある映画だと思います。
私の場合の前提条件は(1-3)を既読でした。
(1)
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(2)
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(3)
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