2015/09/27
■肝内胆管癌について「“とんでもない医者”との出会いも……川島なお美、がん手術決意するまでの葛藤明かす」「川島なお美さん、手術後は抗がん剤治療拒み民間療法」:追記、追々記あり
川島なお美さんの死去が
いろいろ報道されております。
ご冥福をお祈りいたします。
医療関係者の方は
どうお感じでしょう?
レトロスペクティヴな
お話になってしまいますが
(つまりは後出しジャンケン的な検討です)、
ちょっと考えてみたいと思います。
肝内胆管癌は肝臓の中の胆管にできた癌です。
胆管の解剖学的な分類は3つ
1. 肝臓の中を走る胆管は肝内胆管
2. 肝臓の外に出てから乳頭部の手前までを肝外胆管と呼びます。肝外胆管は、さらに2つに分けます。
a) 肝門部から 胆のう管の手前までの肝門部領域胆管
b) 胆のう管がつながって いるところから乳頭部の手前までの遠位胆管
医療関係者的に注意すべき点は
以下の通りです。
1. 肝内にできるため「肝内胆管癌」の分類は「原発性肝癌」になる。
2. 原発性肝癌の約4%が肝内胆管癌である。
3. 「肝内胆管癌」と肝外の胆管癌は別。「肝内胆管癌」は通常の胆管癌より予後が悪い。
ネットでも間違っている情報が大量にあります
のでご注意してください。
第18回全国原発性肝癌追跡調査報告(1)では、
肝内胆管癌の累積生存率は
3年生存率28.5%
5年生存率20.3%
とかなり悪い状況です
(ちなみに最新データは第19回になりますが、今回は閲覧容易な18回を基本にします)。
肝切除症例(手術した症例)でも
3年生存率43.9%
5年生存率31.3%
となっています。
まずは2014年3月の記事です。
“とんでもない医者”との出会いも……川島なお美、がん手術決意するまでの葛藤明かす
RBB TODAY 2014年3月27日(木) 21時00分
http://www.rbbtoday.com/article/2014/03/27/118281.html
今年1月に肝内胆管がんの手術を受けていたことが明らかになった女優の川島なお美が、手術を決意するまでにはさまざまな葛藤があったことを自身のブログで明かしている。
27日に更新したブログで、自身が受けた手術について詳細をつづった川島。状況によって開腹手術に切り替わる可能性があると事前に言われていたそうだが、川島の希望通りに腹腔鏡での手術が行われ、12時間という長時間に渡る手術になったという。
そんな手術を終えた川島を待ち受けていたのは、突然坊主頭に変身した夫でパティシエの鎧塚俊彦氏の姿。術後の妻を笑わせようと手術中に頭を丸めたという夫の変わり果てた姿に驚きながらも、「旦那はんの愛を感じました」と感激。夫やスタッフなど周囲の人々から支えられて手術を乗り越えられたことに、「励ましてくれた夫 秘密を守り仕事を続けさせてくれたマネージャー アドバイスくれた大切な友人たちには感謝しかありません」との思いをつづった。
無事に手術を終えた川島だが、腫瘍が発見された当時は舞台や映画の仕事が入っていたため、手術を決意するまでには半年間悩みぬいたという。「医者任せではダメ」との思いから、まずは自身で生活習慣を改めたり、「自分のかかった病をよく研究し戦略をじっくり練りベストチョイスをすべき」と、民間療法を試みるなどして慎重に事を運んだという。
「『この人になら命を預けられる』そう思える先生と出会うまで手術はしたくありませんでした」という川島。今回は幸いにも自身の命を預けられる医師と出会えたことを感謝したが、その医師と出会うまでには、“とんでもない医者”にも出会ったことを明かす。
がんが良性か悪性であるかの結果も待たず、「とりあえず切りましょう」「抗がん剤で小さくしましょう」と勧めてくるだけの医者に驚いた川島は反論。「悪性と決まってないのに?仕事が年末まであるのでそれもできません」と事情を説明するも、挙句の果てには「ならば仕事休みやすいように悪性の診断書を書いてあげましょう」と勧めてきたという医師に「もうここには任せられない!!」とあわてて逃げ出したという。
しかし、そうした経験も今となっては「本当にいろいろなこと勉強になりました」と前向きにとらえている様子の川島。手術報道後、同じ境遇の人たちから多くのコメントが寄せられていることについて、「私が元気でいることが少しでも励みになるなら嬉しいです」との思いをつづっている。《花》
まずは、
>手術を決意するまでには半年間悩みぬいた
この段階でかなり厳しいものがあります。
>がんが良性か悪性であるかの結果も待たず、「とりあえず切りましょう」「抗がん剤で小さくしましょう」と勧めてくるだけの医者に驚いた川島は反論。
これは医師的にも患者さん的にも
かなり困った展開です。
肝内胆管癌は早期に見つかること自体が難しいのですが、
もし早期で見つかったのならチャンスを逃してはいけません。
肝内胆管癌の特徴は、
1. 肝臓の中にあるので症状が出づらい。
2. 早期発見できても深いので確定診断をつけづらい
3. 肝内胆管癌は浸潤することも多いのですべて切除できてないことも多い
ということで、
疑わしいなら確定診断のために手術をして
腫瘍をとった上で、最終的に病理検査で確定診断、
というのが本来は望ましい方向でしょう。
なのに、
患「悪性って決まってないじゃない」
医「だから、悪性かどうかすぐに手術したほうがいですよ」
患「とんでもない医者だ!納得できない」
医「悪性の可能性高いから、手術したほうがいいですよ。そういう診断書書いてもいいですよ」
患「もうここには任せられない!!」 → 逃げ出す
自分で生活習慣改善、民間療法
と、ここまでくると
医療関係者としてもなかなか介入が難しいわけです。
>「自分のかかった病をよく研究し戦略をじっくり練りベストチョイスをすべき」
>民間療法を試みるなどして
>慎重に事を運んだという。
この段階で
すでに残された時間を
使い切ってしまった可能性が
高いと思われます。
医師としては
せっかく早期発見して
改善の可能性があるのに、
半年も民間療法やって
「ようやく納得しました」
「慎重に判断しました」
って言われてもね、
と思ってしまいます。
>「自分のかかった病をよく研究し戦略をじっくり練りベストチョイスをすべき」
いやいや、
じっくり判断するべきではなかった、
のではないでしょうか?
これをマスコミが
あたかも”いい判断”であるかのような
報道の仕方はいかがかと思います。
川島なお美さん、手術後は抗がん剤治療拒み民間療法
日刊スポーツ 2015年9月26日6時26分
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1543986.html
今月24日に胆管がんで亡くなった川島なお美さん(享年54)は、副作用で女優の仕事に支障が出る可能性がある抗がん剤治療を拒み、14年1月の手術後からは、都内にある民間療法の治療院に通っていた。
同院関係者は「仕事の合間に多い時で週に2、3度、来られていました」と明かした。最後に川島さんが来院したのは今月中旬で、16日に公演先の長野県伊那市で体調を崩す直前だったという。
また同関係者は、川島さんへの治療内容を「『ごしんじょう療法』という純金製の棒で、患部や体全体をさすったり、押さえたりするものです。気の力で病気の根源となる邪気を取り除いてました」と説明。難病にも効果が見られるとし、「(川島さんは)『舞台に立ちたい』と言っておられました。仕事への情熱、気迫がものすごかった」と振り返った。
>純金製の棒で、患部や体全体をさすったり、押さえたりするもの
じゃあ、
金のインゴットを取り扱っている業者さんは
長命の方が多いのかな?
多分、この民間療法も
マスコミで取り上げたから
一時的に流行っちゃうんでしょう。
普通のクリニックでも
金の延べ棒、
購入したらいいかもしれません(ヤケ)。
結局は
肝内胆管癌になった時点で
病気自体が非常に厳しいので
いろいろと難しい点が多かったのは
事実だと思います。
でも
医学的には
民間療法は生命予後を改善しません。
早期の診断と手術が
最大でほぼ唯一の
有効手段です。
また、
こういう科学的根拠のない民間療法を
>難病にも効果が見られる
とか書いてしまうマスコミも
どうかと思います。
記事を書いた方が
実際に自分の家族が難病で
金の延べ棒でこすってもらって
喜んでいたら
満足されるのでしょうか?
金の延べ棒療法で
5年生存率改善とか
疾患の改善率とか
論文やデータがあったら教えてください。
>仕事への情熱、気迫がものすごかった
そのエネルギーがあるのなら
もう少しやりようがあったのでは?
と思ってしまうのは
私だけでしょうか?
あくまでマスコミの情報だけで判断する
個人的な意見ですが、
以上の経過を診察でお話されたら
かなりトンデモな患者さんの部類に入ると思います。
これを美談にしてしまうマスコミは
いかがなものかと思います。
早期診断
↓
納得できないので逃げ出す。半年、生活習慣の改善と民間療法でじっくり戦略を練る
↓
納得できました。手術します。でも開腹はナシ!
↓
術後も民間療法続けます
「川島なお美さんもやっていたんですよね、
新聞にも載ってましたし
藁にもすがる思いで来ました」
という患者さんが大量に
金の延べ棒でこすってもらいに
行くことでしょう。
その中に自分の家族や
知人がいませんか?
胸を張って堂々とお勧めできる治療ですか?
みんなが納得出来るなら
それでいいです。
でも、
せっかく早期で発見されたのに
腕が象の足のようにバンバンに
腫れるまで民間療法に入れ込んだ方や、
新興宗教で全く食べられなくなった方が、
病院の前に捨てられるように
置き去りにされることがありました。
そんな患者さんが病院内で
自殺をしたり
放火(未遂)したりと
いろいろなことが医療現場では
あるわけです。
そういうことを全部分かっていて
金の延べ棒で
こすってもらうならいいです。
以上、あくまで
純粋に医学的な判断からすると
いまの報道は
少々ズレがあるのでは、
というお話です。
一医療関係者としては
このケースを推奨されるのは
ちょっと違う、という違和感を
ぬぐえませんでしたので
記事にさせてもらいました。
故人を中傷する意図は全くありません。
合掌
↓こちらは完全に医療関係者向けの本です。
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原発性肝癌取扱い規約
臨床・病理 胆道癌取扱い規約(第6版)
追記:
本ブログ記事が
大勢の方に見てもらっているようです。
こんな極北のブログに来ていただき
大変ありがたい事です。
いろいろなご意見があると思いますが、
おおむね好意的なご意見のようです。
ありがとうございます。
また、
反対の意見もあって当然だと思いますし、
「うちの商売邪魔するな!」
という人もいるかもしれません。
それもありです。否定しません。
皆さん、納得しているならいいんです。
ゴマでも、イワシの頭でも、インゴットでも。
でも、代替医療はトラブルが多すぎます。
私個人の意見では、
現時点では
「自分の家族に勧められる代替医療は無い」
ということだけ、言わせてもらいたいと思います。
癌取扱い規約とか
専門書だけご紹介してましたが、
かなり一般の方が見ていらっしゃいますので
現代医学の視点から見た
代替医療に興味がある方は
この2冊がお勧めです。
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代替医療解剖 (新潮文庫)
NATROM氏による代替医療に対する考察です。一読の価値あり、だと思います。
「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!
追々記:
当ブログ記事を批判的に受け止めている方に
化学療法および放射線治療について
誤解が多いようですので一言。
当ブログでは
肝内胆管癌の抗がん剤治療および放射線治療を推奨しているわけではありません。
勧めていない、わけじゃないです。
勧めている、わけでもないです。
……分かってください。
現時点では
手術以外に決定的な治療がないのです。
肝内胆管癌の化学療法は
いまのところ奏功率が10−20%だと思います。
ですので、肝内胆管癌では
「抗がん剤治療をしないから悪い」
とは、うちのブログでは言いません。
症例によっていろいろと違ってくるでしょうし、
今後、多くの治療法が開発されるでしょうから
いい意味でこの文章が過去のものになるといいのですが、
現時点では
「肝内胆管癌は、早期の手術のみが生命予後に関係する」
と考えられています。
肝内胆管癌は
できるだけ早く、
できるだけ広く確実に、
内視鏡手術にこだわらず、
肝胆膵の手術経験豊富な施設および術者に手術してもらう、
ということが最重要です。
きっといろいろなことがあるでしょう。
・がっちり切られたのに良性だった
・がっちり切られて合併症が出た
・内視鏡手術にすればよかった
・がっちり切ったのに癌が残った
・がっちり切って癌も残さず取れたのに再発した
・がっちり切って癌も残さず取れたのに転移した
……それはもう、本当にいろいろなケースがあるでしょう。
やってみなければ分かりません。
そして医療関係者は
それぞれの分かれ道の分岐を予測し
枝分かれした迷路のような道を説明しようとします。
「この道は危ないけど、ここだけが向こうに抜けることができます」
「あちらの道は辛くないけど、いずれ行き止まりになります」
「その道は最近初めて開通しましたが、思っているより険しい道です」
そして医療データという不完全なGPSを駆使して
どうにかゴールにたどり着こうとします。
たまに
いきなり医師の差し出したGPSを放り出して
道の脇の藪の中に飛び込んで、
「自分の道を行く!自由にさせてくれ!!」
「いやいや、待ってください。そっちは道がないですよ」
「とんでもない。あなたの勧める道はひどい、ってみんな言っている!」
と叫んで視界から見えなくなる人がいます。
それもありです。
勧めはしませんが。
肝内胆管癌はその分かれ道が
本当に早くきます。
現時点では
分岐は1箇所しかありません。
多くの人は肝内胆管癌が見つかった段階で
すでに分岐点を過ぎてしまっています。
運良く分岐前に肝内胆管癌を見つけても
すぐに分岐点がきます。
繰り返しますが、
肝内胆管癌の場合、
選択肢は一つしかありません
手術をするか、しないか、
です。
藪の中に飛び込んで逃げても、
真正面から進んでも、
ごく早い時期に分岐点がくるのです。
当ブログでは
その分岐点のことをお話ししているつもりです。
川島なお美さんは
知らないうちに
治療できる分岐点を超えてしまったのでは?
と思っています。
そして、マスコミが
「手術の前にいろいろ民間療法とかやって、納得したからいいよね」
という誤った美談を流して、
本当に決断しなくてはいけない分岐点を前にして
決断しないまま民間療法に走って治療ができなくなった悪い前例を
あたかも美談のように報道しているのではないですか?
といいたいのです。
肝内胆管癌では
残念ながら分岐点を過ぎた後は
抗がん剤を使わなかった、とか
放射線治療を行わなかった、とか
それは問題になりません。
当ブログでも問題にするつもりはありません。
手術の後、治療せずに
余命を仕事に向けるもありですし、
一筋の望みにかけて
放射線治療や化学療法にかけてみるのもありでしょう。
さらに当ブログとしては
福島に行ったとか、
ワインが好きとか、
ダイエットしすぎたとか、
そんなこと全く問題にする気はありません。
これらはみな、
「現時点では医学的な因果関係は否定的」だからです。
ただ私個人は、
全てが終わった後に
「ああ、もっと手術の前に、本当に決定的な分岐点があったかもしれない」
とレトロスペクティヴに、懐古的に思うのみです。
ご逝去を悼み、
謹んでお悔やみ申しあげます。
(1)第18回全国原発性肝癌追跡調査報告
Table21 肝内胆管癌の累積生存率(194~ 205)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/51/8/51_8_460/_pdf
ご参考になりましたら幸いです。
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