2012/07/26
■開業つれづれ:女もすなるオリンピックといふものを ロンドン、北京、えーと シ、シドニー?
オリンピックが始まった、らしい。
クリニックの院長室で、なぜここにいるのかよく分からないが、外科医の悪友、塩見君が管理人めどの隣でテレビに向かって吠えた。
「うをー。八木かなえ頑張れ!!」
「ええと、誰?」
塩見君はとてもとてもオリンピックが好きだ。というかW杯、世界陸上は言うに及ばず、初詣や近所の花火大会も含めて、お祭りが好きだ。そして、いつも女性あるいは女子選手に視線が釘付けだ。
「八木かなえ(なぜか呼び捨て)は、すごい天才で体操もすごかったのに、高校ではじめた重量挙げでいきなり全国制覇して、国際大会まで行っちゃったんだ」
などとフンフン鼻息を荒くしながら解説をする塩見君。こういうところは学生の頃から全然変わらない。学生時代におんぼろ車で2人でドライブしていたとき、近くの大学の陸上部が練習をしていた。
「見たか、めど。あの先頭のランナー美人だな」
あのときの鼻息とあまり変化がないような気がする。三回目の結婚で彼の何かが改善あるいは進歩したのかと思ったが、変化はないような気がする。というか、オリンピック級でなくていいから、人としてもう少し進歩しろよ。
で、彼が吠えているのが天才重量挙げの八木選手。
「じゃあ、若いんだ」
「当たり前だ、1992年生まれだ」
勝ち誇る塩見君。ええと、君の子供でもおかしくないぐらいの年齢だよね、きっと。
一方、管理人は、オリンピックの何たるかを知らない。「選手」とキーボードを打ったら「腺腫」と出るぐらいあまり興味がない。塩見君はノン気な管理人をしばし凝視し、塩見君の何らかの思考回路がピコーン!とお知らせをしたのかもしれない。こう言い放った。
「めど、わかった。お前は男性更年期だ」
おいおい、的外れもいいところだ。塩見君、外科医だろ。直感ではなく、ちゃんと診断しないとダメだろ。
「じゃあ、めどは誰が好きだ」
「は?」
塩見君、小学生の男子の会話じゃないんだから。ボキャブラリーが少なすぎ。
「サッカーのきれいな人かな」
「あー、残念だったな。川澄(やはり呼び捨て)?彼氏いるって噂だぞ」
はいはい。いい年したおじさんが、オリンピックの女子選手に彼氏がいたら残念なのか。
「それとも、澤か!?渋いな」
澤選手だけは呼び捨てでも違和感がないのはどうしたものか、有名だからか、女性的フェロモンが少ないせいなのか、などと考えてみながら良性発作性頭位めまい症になったことを思い出した。
「時どき、めまいするらしいから、点滴してあげたら喜ばれるかも」
「そして、十年後にテレビでこんな回想シーンが流れるんだな。(田口トモロヲ氏風)『澤は迷った。こんな見知らぬ医師の点滴を受けていいのかと。しかし、それが勝利への第一歩だったのだ。プロジェクト、エッッッッックス』」
「ネタ古いな」
「古いからこそ、これ以上古くならないという神話的な叙述方法だ。覚えておけ」
「いや、単に古いな」
「古いからこそ、記憶に残るものもある」
と言って、会話の方向性が分からないまま塩見君はオリンピックの昔話をはじめた。なんだか無駄にテンション高いが、ちなみに我々はここまで完全にシラフ。多分、いろいろな脳内物質が出まくっているに違いない。
「めど。貴様にオリンピックの何たるかを教えてやろう。オリンピックの開催地って、覚えているか?」
塩見君は急に偉そうに聞いてきた。でも、なぜ貴様呼ばわりだ?
「すまん、全然分からん。ええと、今回はロンドンだよな。その前は北京。更に前って、アメリカにいたから全然記憶にないんだよな。えーと シ、シドニー?」
「残念。ロンドン、北京、その前がアテネだ。更に前がシドニー。アトランタ、バルセロナ、の順番に古くなっていく」
どうだ、と言わんばかりの塩見君。
「更に前がロス五輪、あのふらふら女子ランナーのアンデルセンが出たのがこの大会」
「あー、あれってそんな昔か」
「1984年。だって体操の森末とか柔道の山下の時代だから」
「若い人は絶対に知らないね」
「知るはずもない。あえて言わないが、それが人格者としての重みとして外ににじみ出してくるのだ」
塩見君のいう人格者が、自分自身に当てはまっているかどうかは敢えて言わないでおこう。理想と現実とはかくも距離があるものなのだ。
「単に年を取ってだけだけどな。ロス五輪のときは、八木選手も全然生まれてないじゃないか」
「1992年生まれだから、生まれる気配すら無いな」
「そんな子供が今やオリンピック選手だよ」
「2000年生まれは12歳だし、平成生まれはもう普通の大学(医学部生は6年間なので4年生大学をこう言う)を卒業か」
年齢の話しをするとなんだか切ない年頃になってきた。切ないと言うより救いようがないと言った方が正しいのか。彼の目はテレビに吸い付けられていた。ボー、と画面を見ながら体操の田中選手に見とれていた。
「田中理恵っていいよな」
八木選手の次は田中選手か。なんだかベクトルが全然違う気がするが、彼の頭の中ではかみ合っているらしい。三回結婚男の思考回路は複雑で分かりづらい。
「田中理恵は、努力の人なんだよ。おれDVD持ってるけど、貸すか?」
そ、そこまで好きなのか。
そんな馬鹿話をしていたら、急に携帯が鳴り響いてびっくり。当然と言えば当然で、三人目の奥様である工藤君からの着信が鳴り響いた。
「いやー、今帰ろうと思っていたんだけど、めどの話しが長くてさ。いや、うん。うん。そうなんだ。なんだか重要な話しって言っていたんだけど。いや、いや。うん、うん。いや、帰ってから話しするね。そう、そう。すぐ帰るよ。じゃ」
そう言うとすぐに塩見君は立ち上がる。
「悪いな、めど」
「今の話しだと、俺が悪者か」
「まあ、なんだ。よろしく頼む」
ニヤッと塩見君が笑う。
「工藤君に体操の田中選手のDVDのこと話しするぞ」
「まあ、待て。うちのかみさん(工藤君)が田中選手のファンなんだ」
とすっとぼけたことを言う。
「じゃあ、確認してみるか」
「ああ、うそ、うそ。ごめん。ええと、どうしたらいい?」
そんな簡単なウソつくと、工藤君にはすぐばれるぞ、と忠告をする。時差のあるロンドンオリンピック。塩見君はこれからしばらくは子供のように夜中にテレビ漬けになるに違いない。
「ああ、これかみさんが」
塩見君は帰り際にビニール袋に入った長ネギを差し出した。彼女の実家では本式に畑を持っていて、大量の野菜を収穫しているのだ。たまにお裾分けしてもらう野菜は、新鮮でとてもおいしい。
「ありがとう。奥さんによろしくな」
ロンドンオリンピックが開催されました。一般の人間には想像もつかないような競技の世界の祭典。人間の限界に挑むアスリートたち。選手の皆さんのご健闘をお祈り致しております。
追記:
その後すぐに塩見君から電話があった。
「めど、めど、ソウルを忘れた。ロス五輪の次はソウルだった。いやあ、すっかり忘れていたよ」
とてもうれしそうに声を弾ませている塩見君には、どうでもいいよ、なんて言えない管理人だった。
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